当事者間の和解も尊重されない

後遺障害の認定をめぐって被害者が裁判で争うケースはあとをたたないという。
前出のK弁護士は、訴訟と後遺障害等級認定の問題点についても、こう指摘する。
「自算会が、被害者の異議申し立てにこたえないことも問題ですが、被害者と加害者が裁判で和解しても、自算会がその和解の内容をなかなか尊重しないことも実は重大な問題なのです」
K氏が扱った例では、こんなケースがあった。十九歳の女子大生がオートバイにはねられて、足首の間接が動きにくくなり、疼痛および醜状痕の後遺障害を負った。しかし、自算会が後遺障害等級に該当しないと判断したため、女子大生は東京地裁に提訴した。
一方、加害者は任意保険を使って女子大生に補償する意志があった。常識的に考えれば、裁判で「和解」すればよい。ところが、加害者の任意保険は、自賠責と一括して支払う仕組みなので、自賠責が支払われないと、その分を加害者側、がかぶってしまう。そこで、加害者側の任意保険会社は、「和解による解決では自算会がそれを尊重せず、自賠責保険の回収ができないとして、結局、最後まで女子大生と争って「判決」を求めざるをえなくなった。判決なら自算会も従うからである。
K弁護士はこう憤る。「被害者だけでなく、加害者と任意保険の損保会社も、早く和解をして被害者に保険金を支払いたいと思っているのに、いやいや判決まで裁判を続けざるをえないのは、和解が成立しても、自算会が和解内容を尊重しない例が多いからです。この自算会の頑なな対応が問題解決の壁になって、裁判の長期化を招くケースが多いのです」
これまで様々な関係者から話を聞いた上で、訴訟を抱える多くの弁護士や損保会社からK弁護士とまったく同じ意見を耳にした。
これに対する自算会の説明はこうだ。
「和解を全て尊重しないわけではありません。ただ、診断書の内容と和解で認められた等級が、自賠法施行令の別表(後遺障害別等級表)に当てはまらない場合は、従うことはできません。法令に違反してまで保険金を支給することはできないのです」(広報課)
しかし、K弁護士はこう切り返す。
「それを言うなら、たとえ判決でも施行令の別表に『当てはまらない』と自算会が考えるものには従えないことになるはず。しかし、判決には原則として従い、自算会の内部規定でも『判決額をそのまま採用する』となっている。これはどういうわけですか。別表にあてはまるかどうかは、評価の問題でしょう。自算会は『当てはまらない』と評価しても、裁判官は『当てはまる』と評価することもある。判決については、裁判官がそう評価したのだから仕方ないと従うのに、和解は当事者が勝手に合意したのだから、自算会は関知しないという態度です。和解内容が信用できないなら、自算会も訴訟に参加すればいいのに、当事者が呼びかけても参加してこない。この点が身勝手だというのです」
不幸にも交通事故の被害に遭い、古い等級表で厳しい査定を受けて裁判に訴え、ようやく和解が成立しても自賠責は支払われない・・・。
被害者の苦しい闘いは、こうして長引いていくのである。